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「懲役30年!」 教師による連続性的暴行事件に判決

      専門家「『聞かなかったことにする』社会的風潮が背景に」

三上英次2009/09/18
 広島の小学校を舞台にして、強姦、強制わいせつ事件など95件もの罪で起訴された男性教諭(当時、以下同じ)への判決が、9月14日、広島地裁で下された。
 
 弁護側は「被告は反省し、懲戒免職になるなど社会的制裁も受けている」として、刑の軽減を求めていたが、被害者の多さや、教師という立場を利用した悪質さ、「100回死刑になっても許せない」「消えない傷を負わされ、子どもの一生はめちゃくちゃになった」といった母親らの心情を汲み、奥田哲也裁判長は、有期刑としては最高の「懲役30年」を言い渡した。

 広島県に限らず、8月19日には、宮城県の男性教諭が、特別支援学校に通う女子生徒にわいせつな行為を繰り返していたとして、教育委員会から懲戒免職処分になっている。

「懲役30年!」 教師による連続性的暴行事件に判決 | 危機管理や安全対策についての書籍。あらゆる場所で、子どもたちを性被害から守る取り組みが今後期待される。(撮影筆者)
危機管理や安全対策についての書籍。あらゆる場所で、子どもたちを性被害から守る取り組みが今後期待される。(撮影筆者)
 学校現場でのこうした事件の再発防止のために、保護者や子どもたちは何ができるのか――。この点について、臨床心理士として多くの事例に当たって来た酒井道子氏に聞いた。酒井氏は、現在、慶応義塾大学病院小児科で、心理的な問題を抱える子どもや家族への治療に従事している。一方で、子どもや障害者の性被害に対応する社会システムを緊急に作るべきだと考える小児科医、精神科医、子どもにかかわるNPO法人関係者、臨床心理士等とともに「子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会」を2年前に立ち上げ、実効ある社会システムの実現に向けて積極的に活動をしている。(以下、文中敬称略)

(1)この事件の背景にあるもの

(記者)今回の広島での事件をご覧になって、どのような印象をお持ちになりますか。

(酒井)この事件には、子どもたちへの性犯罪に関するすべての問題が含まれているように思います。まず、加害者の男性教諭は19年間にもわたって、子どもたちに性的暴行を重ねて来ました。どうして、そんなに長きにわたって、この教師が野放しにされ、子どもたちが放置され続けて来たのか・・・ということです。

(記者)どうして、そういうことが起きたのでしょうか。

(酒井)日本の社会では、性に対する意識的あるいは無意識的否認が人々の中にあります。そういうことを「聞かなかったことにする」「思い違いや考えすぎに違いない」「そんなことがあるはずがない」という風潮です。性に関して口にすることをタブー視する文化的背景もあります。それに加えて、学校特有の体質もあるでしょう。

(記者)今回のケースから、再発防止のためにどのようなことを考えなければいけないでしょうか。

(酒井)医療・教育・司法・行政など、子どもたちに関わるあらゆる分野の人たちへの意識改革が必要でしょう。もちろん、子どもや親への啓発活動も大切です。
 学校での性犯罪という点で言えば、私が関わった事件でも、第三者的な立場の調査委員会が設置されないことがありました。学校関係者が、言わば「身内」であるクラス担任に事情を聞いて報告書を作るようでは、真実の究明など期待できません。

(記者)往々にして、単なる「ポーズ」で終わってしまう可能性が高いですね。「再発防止に努めたい」と関係者がカメラの前で深々と頭を下げ、また何度となく事件が繰り返されるのも、そういう形だけの“調査”が横行しているからでしょうか。

(酒井)すべての事例がそうだとは言いませんが、学校内の教師による性犯罪を見ると、明らかにシステムの不備を感じます。被害に遭った子どもや親はどこに相談してよいか分からず、時間が経過して証拠が失われていくことがあります。また、たとえ学校に相談したとしても、そこで隠蔽されてしまえば事件は無かったことにされて多くの被害者は泣き寝入りをさせられてしまいます。学校や加害者と利害関係の無い第三者機関がきちんと被害を聞き取れるシステムさえ、今の日本では確立されていません。

(記者)この事件で厳しく罰せられるべきは、被告の男性教諭本人です。しかし、毎年毎年、このような「教師によるわいせつ事件」が起きるのに抜本的対策を講じない、学校や教育委員会の責任も問われるべきではないでしょうか。つまり、学校による「不作為」にも事件の原因があるように思います。

(酒井)今の学校現場では、「問題の起きない学校が、よい学校」「何もトラブルが無い学校の校長が、優秀な校長」と考える向きがありますが、これは違うと思います。多くの人間が集まるところなのですから、「何らかの問題が発生して当たり前」なのです。ですから、校長であれば、何か問題をみつけたら、それにどのように対処し解決すべきかを学校内外の人と協力して考えるためのリーダーシップをとれるか否かを評価するようにすべきです。「何も無かったからよい」というわけではありません。

(2)子どもや保護者にできること

(記者)今、「システムの不備」が指摘されました。第三者機関を設置して、親が相談できるようにする…ということの他に、「教師によるわいせつ事件」を未然に防ぐために、どうすればよいか、うかがいたいと思います。

(酒井)今回の広島の事件でもそうですが、子どもや女性は、抵抗できない状態で暴行を受けるわけです。力によって屈服させられます。また教育現場では、教師と生徒という絶対的な力関係の中で抵抗できない場面に追い込まれて被害を受けることが多いのです。――そして、被害を受けた後も、無力感、絶望感、精神的苦痛、自分自身への責め、ほかの人間に対する不信感、そういったものに長い間、苛(さいな)まれます。

 性犯罪は一時的な被害ではなく、その人の人生に深刻な影響を及ぼすという点で重大な犯罪です。

 現場の教員や教育委員会関係者の意識を変えたり、システムの不備を改善したりと、やるべきことは多いのですが、まずは当の子どもたちや親への啓発が考えられると思います。

(記者)そこで、子どもたちをどのように啓発していくか――ということです。学校現場に「子どもを性的欲求の対象として見る一部のおとな」が入って来ている現実を、…そのまま子どもたちに教えてよいものでしょうか。

(酒井)そこが大切な点です。学校の教師だけが危険…ということではなく、性犯罪は、どんな場所でも起こり得るということを、子どもや親に教えるべきです。学校だけでなく、幼稚園、保育園、習い事の場所、スポーツ施設、塾、公園、路上など「子どものいる所ではどこでも起こりうる」――というぐらいの意識を、特に親御さんは持ったほうがいいと思います。そして、おとなは子どもの発信するサインに敏感になって欲しいと思います。

 子どもに対する言い方ですが、次の【1】〜【3】について、子どもにきちんと教えていくべきだと思います。

【1】プライベートゾーン、つまり水着で隠れる体の部位は、ほかの人は基本的にさわってはいけない。お医者さんであれ、誰であれ、「あなたの許可無くさわってはいけない」ということです。医師が診察する時ですら、「じゃあ(患部を)見せてもらえますか」と相手に許可をもらうはずです。学校の先生だけが、無遠慮に子どもたちの体にさわってよいはずがありません。そのことを(学校関係者も含めて)徹底すべきです。

【2】「あなたにとって、苦痛に感じること、不快に感じることがあれば、それはいけないことだ」ということです。あなたは自分の体を大切にしないといけないし、あなたには「いや」と言う権利があるということです。

【3】そして「何か苦痛に感じることがあったら、信頼できるおとなに伝えましょう。自分の言うことに耳を傾けてくれるおとなに出会うまで、そのことを言い続けましょう」ということです。「誰かに言って、それが聞き入れられずに終わりではなく、必ずあなたの言うことに耳を傾けてくれる人はいますから、そういう人にあなたの受けている被害を伝えましょう」と子どもに教えて下さい。

(記者)それは、たいへんよい啓発だと思います。「担任の先生に気をつけなさい」では、子どもはおちおち安心して勉強ができません。ですから、「クラス担任であれ、校長先生であれ、保健室の先生であれ、――そして親であれ、あなたの許可無く、あなたの体にはふれることはできない」と言うわけですね。それは「あなた自身で、自分の体を大切にする」ということにつながる――たいへんよい視点だと思います。

(3)医療・警察・司法…社会はどう変わるべきか

(記者)それでは、当事者である子どもや保護者とは別に少し広い視野の話をうかがいます。冒頭に言われた「システムの不備」ということ、あるいはふだん個別にいろいろなケースをご覧になって来て、何かご意見はありますか。さきの千葉県・浦安の事件でも、刑事裁判を経て、現在は民事裁判として係争中であり、事件発生からすでに6年が経とうとしています。

(酒井)被害を受けた子どもたちへのケアが社会の中で十分にされていないということが言えます。子どもたちの訴えにおとなが真剣に向き合わない。時に、それを思い違いだとか、たいしたことではないというようにかたづけようとしたりします。

 これは、一般のおとなだけのことではありません。現在、医学教育の中で、〈性被害への対応〉について十分に教えていないという現状があります。

 今回の広島の事件は、小学校ですが、幼稚園での事件もあります。日本では、深刻な性犯罪が行なわれているのに、被害者や家族への対策や対応が非常に遅れています。それは、今述べた医学教育での不備もありますし、警察関係者や法曹関係者の認識不足もあります。

 例えば、幼稚園に元気に通っていた3歳の女の子が、眠ろうとしない、無表情で笑わなくなったということに家族が気づき、幼稚園教諭による性的虐待が明らかになりました。医師に受診すると、性器に裂傷がみつかり、医師からも警察に被害届を出すように言われて診断書を渡されました。ところが、警察では「3歳児では、事件にならない」と被害届が受理されなかったというケースも実際にあるのです。

 性犯罪は、行きずりの場合もあれば、家族からのもの、今回のように教師からのものもあります。ですから、起き得るケースを限定するのではなく「どこででも、誰からでも性的暴行を受ける可能性はある」ということを、親も子どもも理解する必要があります。そして、必要以上に怖がるのではなく、さきほど述べたようなこと(【1】〜【3】)をふだんから知っておくことです。

 もう一つ、教員の選考をする際に、今は志願者の“自己申告”で済ませていると聞きました。そうではなくて、これまでの履歴について、きちんと照会できるようなシステムも必要ではないでしょうか。

(記者)たしかに、現在の教員採用試験の願書は「私は選考実施要綱に掲げられた受験資格をすべて満たしており、本志願書記載事項に間違いはありません」と印刷されているところに、受験者が署名をして終わりです。そうすると、アメリカのメーガン法のように、性的犯罪の履歴なども情報公開して、例えば教員採用試験の場合なら、採用側がチェックできるようにする…ということでしょうか。

(酒井)実施に向けては、いくつか検討すべき問題もあると思います。しかし、実際に被害を受ける子どもたちの心の傷、被害の大きさを考えるならば、教員志望者の前歴を照会するような制度も考えなくてはならないと思います。実際にアメリカの一部の州では、教員採用に際して職歴や前職を辞めた理由なども調査されるため、子どもとのトラブルや性的加害があった場合には、採用されないシステムがあります。また、日本では、たとえ性的加害によって教員を辞めたとしても、別の県に行けば前歴を隠すことができるため、子どもへの性的嗜好を持つ教師が犯行を繰り返すことが可能なのです。これについては「地域を越えた情報の共有」を可能にするシステムが必要でしょう。

(4)被害者の救済について

(記者)非常に聞きにくいことをお尋ねします。性的事件の被害に遭った人たちの苦しみは、時間が経つことで癒えることはあるのでしょうか。

(酒井)非常に難しい問題です。広島の事件でも「(カメラの)シャッターの音を聞いただけで涙が出る」という被害者の声がありました。心に受けた傷はなかなか癒えません。しかし、適切なケアや支援によって、その子が生きやすくなる、前向きに生きていける、少しでも安心して生活できるような環境を整えてあげることは可能です。

 前に、医療教育や警察の対応にふれましたが、それ以前に、もっと身近なおとなが、子どもの訴えを真剣に聞くべきです。そのことでどれだけ多くの犯罪が未然に防げるかわかりません。日本では、子どもの訴えに対して、教師もそうですが、おとなが無関心であったり、特に気にとめなかったりし過ぎるのです。そういう子どもの心に寄り添わない態度や、そこから発せられる心ないことばによって、子どもたちはさらに傷つけられています。

 学校関係者や保護者の方に知って頂きたいことは、「性犯罪は、どんな場所でも起こり得る」ということです。問題に直面している子どもが一刻も早く救われるためには、学校関係者、親、その他立場に関係なく、その子に素早く救いの手を差し伸べてあげられることが大事です。

 実際には、多くの子どもたちが「泣き寝入り」せざるを得ないという現状があるのです。

(記者)さて、そこでお尋ねします。2年前に立ち上げたという、「性虐待を受けた児童・障害児を緊急に救済する24時間対応システムを構築すること」を目的とした「子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会」のことです。設立の目的、おもな活動内容など、教えて頂けるでしょうか。

「懲役30年!」 教師による連続性的暴行事件に判決 | 〈子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会〉作成の冊子(2009.3月作成)。「性犯罪を助長するインターネットの現状」「海外先進事例に学ぶ」等の記事が収められている。
〈子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会〉作成の冊子(2009.3月作成)。「性犯罪を助長するインターネットの現状」「海外先進事例に学ぶ」等の記事が収められている。
(酒井)街中やインターネット上、そして、保育園、幼稚園、学校、塾…と、至るところで児童性愛者はひそんでいます。そしてそれらの被害者たちは苦しんでいるにもかかわらず、一部しか適切なケアを受けられていません。多くが深い心の傷を負いながら、自分の受けて来た性的被害を誰にも打ち明けられずに悩み続けています。

 虐待の中でも、性的虐待は、その深刻さゆえに、もっとも適切にケアされるべきですが、日本の現状は、子どもたちが被害を訴える場所がありません。

 私たちが目指しているのは、子どもたちを性被害から守るために、あらゆる分野の専門家がネットワークを作り、子どもたちを性被害から守るための社会的システムを構築することです。

 そのためには、どこかに新しい建物や施設を作るのではなく、どこの地域でも、既存の総合病院や救急外来や小児科外来や精神科外来に子どもたちの性被害の訴えに24時間体制で対応できる機能を作ることが必要です。場所によっては、大学病院でも、福祉施設でも、既存の施設でいいのです。医師、看護師、臨床心理士、保育士、教師、インターネットの専門家、警察を含む行政・司法・立法関係者などが、共通の問題意識を持って連携することです。そうしたネットワークにより、子どもたちを性被害から守るセーフティネットを作るというのがねらいです。

 いままで日本の各地で子どもの性被害について問題を感じ、活動して来た人はたくさんいると思います。昨今、新聞などのマスコミで子どもの性被害についても頻繁に取り上げられるようになってきました。国民の関心も高まりつつありますが、国の制度は一向に変わる気配が感じられません。子どもたちは未来への希望です。私たちは今までばらばらに活動してきた人たちの声を集め、それぞれの現場で感じてきた問題を解決していくための具体的な方策を提案して、社会を変えていくための実効のある活動をしていきたいと考えています。

(記者)今日はお忙しい中、ありがとうございました。


〔関連記事〕
「教師による教え子への性的暴行をどう防ぐか」

〔関連サイト〕
クローバーキッズ協会
(注)サイトの閲覧はできますが、個別の相談には現在応じていないとのことですので、ご理解お願いします(三上記)。

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